Wednesday, February 28, 2007

1000's tragadies raw text

1000の悲劇

pg10

彼の名は千年伯爵。世界を終焉に導く者。

とんがり耳に大きな口。

好きなものは、悲劇。

pg11

りんりんりん。

山のように積まれた電話が鳴っています。

りんりんりん。

電話の山囲まれて、今日も伯爵は笑っています。

伯爵の電話はみんな、悲劇につながっています。

数え切れない悲劇が世界中で生まれ、伯爵の来訪を待っているのです。

悲しみの卵化してアクマとなる日を待ちかねているのです。

伯爵は大忙し。

足取りも軽やかに街を行きます。

赤茶色の石畳が敷き詰められた道は

まるでチョコレートのよう。

pg12

賑やかな音楽が遠くから間こえてきました。

空には飴玉のよらな色とりどりの風船が舞っています。

そして笑いさざめく人の声。

どうやら、今日はお祭りがあるようです。

ざわめきに引き寄せられるように歩いていた伯爵は、

ぴたりそ足を止ました。

伯爵の服の裾を、幼い子どもがつかんでいたのです。

えんじ色の毛系の帽子に茶色のコート。秋色の子ども。

ひょいと片手で抱え上げられそうな、小さな小さな子ども。

そのふくふくした赤い頬を涙がこぼれ落ちていきました。

「何ですカ、きみハ?」

「おかあさーん、どこー」

pg13

泣きじゃくる子どもは伯爵から離れようとしきせん。

小さな手で伯爵の服をぎゅっとつかんでいます。

「仕方ありませんネ*」

ひょいと伯爵がポケットから取り出したのはおんぶひも。

器用に子どもを背中にくくると、伯爵は再び歩き出したした。

子どもを背負って伯爵はお出かけです。

向かったのは東にある町。

あちこちにお寺や石像があり、落ち着いた雰囲気です。

黒髪、黒目の人々が、伯爵を見て驚いた表情になりました。

それもそのはず、とんがり耳に奇妙な帽子をかぶった伯爵は、

pg14

雑草の生える道に突如現れた、

毒々しいラフレシアの花のよう。

建ち並ぶ家の一角で、伯爵は足を止めました。

その家には永遠の眠りについた男がいました。

そばには彼にとりすがって泣いている若い女性がひとり。

しゃくりあげるたびにさらさらと揺れる黒髪は、まるで墨の川のよう。

彼女の喉からはもうかすれた声しか出ません。

でも、彼女は泣きやもうとしません。

伯爵はそっと近づき、声をかけました。

「どうしましタ?」

涙を頬につたわせたまま顔を上げた女性は、

まるで朝露に濡れた花のよう。

pg15

「ともに生きようと、結婚を誓ったあの人が逝ってしまったんです。

神のもとへ」

「じゃあ、取り戻しましょウ。忌まわしき神の手から彼ヲ*」

彼女の顔に、ほんのり希望の色が浮かびました。

虚ろだった目に力が房ります。

彼女は気づいていないのです。

今、自分が死刑台に向かう階段に一つ足を乗せてしまったことを。

夢にも思わないのでしょう。

これ以上の悲劇が自分の身に訪れようとしていることなど。

「どうやって……?」

「簡単ですヨ。

あなたは愛しい彼の名前を呼ぶだけでいいんでス*」

pg16

「それだけでいいの?」

女性は驚きの声を上げました。

期待が彼女の心をつかみ、強く揺さぶります。

伯爵の声は毒。

それでも彼女にとっては甘い蜜。

思わず手を伸ばさずにはいられない魅惑的な蜜なのです。

……死んだ人を生き返らせるなんて……そんな」

彼女の心は揺れ動きます。

伯爵はにっこり微笑みました。

「考えておいてくださいネ。また来ますかラ*」

彼女はすがるように伯爵を見つめます。

そう、彼女の願いを叶えられるのは、千年伯爵だけなのですから。

pg17

伯爵には、彼女の心が手に取るようにわかります。

次に会ったとき、彼女は呼ぶでしょう。

愛しき人の名を。切になに。天に届くようにー

世の理を捻じ曲げることを辞さずに。大きい代償を払うことも知らずに。

彼女は奪い返すでしょう。

冥界に向かった彼の魂を。

そしてー新たな悲劇がまたひとつ、この世に産み落とされるでしょう。

坊やは大きい目を見開いて、それを見ていました。

伯爵がポケットから出したのは、折りたたまれた白い紙。

「そろそろ……ですネ。行きましょうカ*」

pg18

今度は西へ、ひとっ飛び。

西の果てのこの町は、つい最近まで黄金の採掘でにぎわい、一攫千金を夢見る男たちどあふれ返っていました。

ですが、今はもう通りには赤土が舞うばかり。

人の姿もまばらです。

伯爵が向かったのは小さな小屋。

ベッドに横たわり、冷たくなっているのは幼い子ども。

背負った坊やより、二つ三つ年上の、

まだこの世に生を受けて十年にも満たない子ども。

その小さな体には病魔が巣食い、

命の灯はとうとう尽きてしまいました。

お父さんはそっと子どもの手を握っています。

pg19

子どもがその手を握り返すことはないけれど。

それでも彼は子どもの手を握っています。

いつか、握り返してくれるのではないかという儚い望みを抱いて。

妻を亡くした彼にとって、子どもはたった一人の家族。

そして愛する人の忘れ形見でした。

子どもの病気を治すため、父親はあらゆる手を尽くしました。

しかし、待っていたのは非情な結末でした。

子どもの冥福を祈って、数々の美しい花が捧げられましたo

豊潤な香りに包まれながら、

父親は石像のように動きません。

pg20

「決心がつきましたカ?」

ゆっくりと父親の顔が上げられ、

そして彼はうなずきました。

彼の中の良識は、絶望と悲しみによって食い破られました。

悲しみは人の目をくもらせます。

伯爵の顔に克明に浮かぶ、嘲りの笑みすら見えなくなります。

伯爵がひょいと取り出したのは、骸骨をかたどった魔導式ボディ。

彼は言われるがまま、我が子の名を呼びました。

その声は安らかな眠りについていた子どもの魂をつかみ、

乱暴にこの世に引きずりおろしました。

pg21

伯爵は満足そうに見守ります。

魔導式ボディに子どもの魂が入りました。

伯爵は楽しそうに、口角をつりあげます。

魔導我ボディが父親の口をこじ開け、

そよ体の中へと無理やり入っていきました。

伯爵は手を叩いて笑い出しました。

皮は父、骨組みはダークマター、囚われた魂は子ども。おぞましい兵器のできあがり。

そしてー伯爵のおもちゃがまたひとつ産声を上げました。

pg22

伯爵の背中で、坊やはうとうとしています。

「様子を見に行きましょうカ*」

伯爵はスキップしながら南に向かいました。

そこは灼熱の太陽が照りつける町。

よく日に焼けた人々が陽気に歩いています。

お目当ては赤い屋根の小さなおうち。

そこにはおじいさんが一人で住んでいました。

おじいさんは遠い北の国から、

夢だけ持ってこの大陸に移り住んだのでした。

がむしゃらに働き、そして愛する妻に出会い、

pg23

苦楽をともにしてきました。

一週間前、おじいさんは長年連れ添ったおばあさんを喪いました。

がっくりうなだれたおじいさんの前に現れたのは、我らが伯爵。

いまやおじいさんはおげあさんと一心同体。

伯爵が与えた歪んだ幸せ。

人が造み出した悲しみの落とし子。人の愚かさの所産。

それがアクマ。

おじいさんの姿をしたアクマは、

まだ生まれて間もない赤い子のような兵器です。

育てていかなければなりません。

伯爵はその耳にささやきました。

pg24

「さあ、人を殺しましょウ。

そしと、進化していくのです、もっト*」

おじいさんはのっそりとロッキングチェアから

立ち上がりました。

その視線はゆっくり隣の家に向けられました。

隣には、ともに励まし合ってきた老夫婦が住んでいます。

おじいさんはたくわえた立派なひげをゆっくりなでました。

「手始めにいいかもしれませんネ*」

主をうしなったロッキングチェアがゆらゆら揺れています。

そしてー世界は滅亡へ向かい、また一つ駒を進めます。

pg25

坊やは目をごしごしこすっています。

伯爵はちょっとお疲れ?

彼が向かったのは、この世であってこよ世でない場所にある家。

そこには人であって人でないものが住んでいます。

ドアを開ければ、そこはおもちゃ箱を思わせる部屋。

駆けときたのは、なめらかな浅黒い肌をした少女。

レースのたくさんついた黒いワンピースを着たその姿は

まるでお人形のよう。

少女の目が好奇に輝きます。

「その子誰ー?」

pg26

「知りませン*」

「その子、食べちゃうのぉー?」

「食べませんヨ*」

「じゃあ、僕が食べちゃおうかなぁー」

「ダメでス*」

少女は甘いキャンディを舐めました。

彼女は人間が大嫌いです。

愚かで脆弱な人間など、

キャンディの包み紙と同じくらいどうでもいいこと。

その紙がくしゃりと握りつぶされようと、踏まれようと、刻まれようと、彼女のどは欠片も揺るがないでしょう。

「それより遊ぼうよぉ、千年公」

pg27

「忙しいんですヨ*」

「その子どものせいでぇ?」

少女の目に物騒な光が宿ります。

「違いまス*」

伯爵はメモを手にすると、また旅立ちます。

坊やが鼻をぐずぐずいわせています。

次なる悲劇を求めて北に行った伯爵。

そこは最初に坊やと出会った町。

もうお祭りは終わったのか、町は静けさに包まれていました。

pg28

てくてく伯爵は歩きます。

坊やを背負って歩きます。

悲劇に向かって歩きます。

突然、背中の坊やが泣き出しました。

「困りましたネ、どうしたんでしょウ*」

ちっとも困ったように見えない伯爵。

その耳に届くは、泣きじゃくる大人の声。

一軒家の窓をのぞくと、一人の婦人が顔を覆い、

しくしく泣いていました。

隣に寄り添う男が、そっと彼女の肩を抱きます。

彼の顔にも色濃い悲しみが見えます。

悲劇の萌芽。

pg29

それが芽吹くはいつの日かー。

「お母さん!」

背中から大きい声。弾む声。

伯爵の背中から、子どもがぴょこんと飛び降りました。

一目散に駆け寄るのは母の胸。

抱きしめられるのは、子どもの常。

「あなたが連れてきてくれたんですか?ありがとうございます!」

母親が頭を下げました。

伯爵はにっこり。

坊やの頭を優しくなでました。

「早く大きくなって、たくさん好きな人をつくるですヨ*」

pg30

「ありがとうございます!」

伯爵は背を向け、歩き出した。

……そして素敵なアクマを造ってくださイ。

楽しみに待ってまス*」

そのつぶやきは誰の耳にも届くことなく、

一陣の風とともに消えていきました。

今日も伯爵は世界を縦横無尽に駆け巡ります。

pg31

彼の名は千年伯爵。アクマ製造者。

頭にはシルクハット。

好きなものはー悲劇。

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i don't really mind even if anyone were to take credit for the typeout (really), just buy the book (recommanded~ those stories are really interesting)

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