黑の教団親睦パーティー
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窓の外には、穏やかな凪の海のよらな青空が広がっている。そんな快晴の日にふさわしい爽やかな笑みを浮かでた長身の男がひとり、廊下を歩いている。
彼はコムイ·リー、二十九歳。黑の教団の室長という、重要な役職についている。もちろん、それに相応しい実力の持ち主なのだが、同時に類い希なトラブルメーカーとしての資質も兼ね備えていた。
尊敬の念を抱きつつも、発作的に殴りかかりそうになってしまうときがある、という複雑な思いを団員、特に科学班の面々に抱かせる男だ。
「みんな、おはよう!」
コムイは扉を開け、中を見渡した。ざっと十数人の科学班員が目に入る。
だが、上司であるコムイの挨拶に応える者は一人もいない。
それもそのはず、机はおろか、床にまで倒れ込んでいる団員たちはひとり残らず深い眠りについていた。どの顔にも疲労が色濃く残り、多少のことでは起そうにない。
「まあ、徹夜五日目だからね……」
ただひとり清々しい表情のコムイは、眠りこけている団員を踏まなように気をつけながら、自分の机に向かった。
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そのとき、ぐいっと団服の裾がつかまれた。驚いて足元を見たコムイは片手を上げた。
「や、やあ、リーバー班長」
床に寝そべっている科学班班長のリーバー·ウェンハムが、うつろな目でこちらを見ていた。目は落ちくぼみ、頬はこけ、無精ひげは伸び放題だ。二十六歳という年齢よりも十歳は老けて見えるその姿には、憐れみを感じずにけいられない。
「室長~、どこへ行ってたんすか?」
恨めしそうなリーバーの言葉に、コムイはにっこり微笑んだ。
「仕事だよ、仕事。司令室にこもってたんだ」
「昨晩、大浴場で一人晩酌をしていたって目撃証言もあるんですが」
コムイの頬がぴくりとひきつった。
「み、見間違いじゃないかな~」
「変装のつもりか知れないですけど、頭にアフロのカツラをつけてたそうですけど」
リーバーの執拗な追及の視線から逃れるように、コムイは必死で顔をそむけた。
「いったい、どういうこと……」
言いかけながら、リーバーは力つきたのか、またばたっy倒れた。
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今度こそ起こさないようにそうっとその場を離れながら、コムイは思った。
ーこれからは気をつけないとね……。
その顔に反省の色はない。
自分の机に向かったコムイの目に、山と積まれた書類が映った。回れ右をしようとしーコムイはすごい勢いで机にへばりついた。
彼の目に映った文字。それは『リナリー』ーそう、愛する妹の名前だった。
コムイは書類の一番上に乗っている、リナリーの名前が印刷された紙の束を手に取った。
「なんだ、これ?」
その新聞のようなものには『教団報』と書かれていた。
「ああ……」
コムイは古い記憶を蘇らせた。確かジョニーたちが、教団内の親睦を図る一助として、月に一回、社内報ならぬ教団報を作り、その月の出来事などを載せたいと言っていた。まあ仕事にさし障りのない程度ということで、許可をした覚えがある。
どうやら、これがその第一号らしい。
リナリーの名前は『ピック、アップ!今月の団員』というコーナーにあった。毎号一人ずつ、団員を紹介していくという趣旨のようだ。
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ーそう言えば、この前、リナリーがインタビューを受けたとか言っていたな。教団報の第一号にリナリーが選ばれたのか。まあ、リナリーは教団のアイドルのようなものだから当然か。
満足げな笑みを浮かべたコムイは、見出しにざっと目を通した。
『切実!過労の団員続出。連日べッドが満杯。医療班からの堤言』、『アジア支部から上海パーティーレポート』ー。
興味を引かれ、にこやかに記事を読み出したコムイの顔が突如引きつった。
「なっ、なんだこれはー!!」
コムイの絶叫は、幸か不幸か撃沈している科学班の人間の深い眠りた妨げはしなか」た。
ぐしゃりとコムイは教団報を握りつぶした。
「……これけ放っておくわけにはいかないね」
そしてコムイは何か決意を秘めた表情で、その場な後にした。
*
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教団の広い廊下を所在なげに歩く白髪の少年がいた。
その淡い色の髪や目の色のせいか、どこか儚げに見える少年の名はアレン·ウォーカー。弱冠十五歳ながら、教団に属するエクソシストである。その顔には、年齢に見合わない深い憂いが浮かんでいた。
「なあ、アレン。このチラシ見たさ?」
アレンに声をかけてきたのは、眼帯をとた赤毛の青年だった。アレンとは対照的な明るい表情をしている。すらりとした体躯にきびきびとした動き。誰もが、つい目で追ってしまうような華やかさがあった。
眼帯をしていな左目を輝かせたラビに声をかけられ、アレンは首を振った。
「チラシってなんですか?」
「今日の夕方、コムイの主催で『団員親睦パーティー』をやるんだってさ」
「へえ……」
「どうしたさ、アレン。やけに音いけど」
そのとき、ちょうどコムイが通りかかった。アレンと目が合うと顔をほころばせ、近づいてきた。
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「やあ、アレンくん。もちろんアレンくんもパーティーに来てくれるよね?」
「パーティーって何をするんですか?」
「ほら、きみを始め新しいエクソシストが何人も入団しただろう?これを機に、普段なからか顔を合わせられない団員を一同に集めて交流を図ろうと思ってね。それから、最近、激務が続いているから、団員なにめのちょっとした慰労も兼ねてるんだ。パーティーではゲームをすることになっている。豪華な賞品も出るから頑張って!」
上機嫌のコムイはチラシの束を抱え、意気揚々と歩いていった。
「張り切ってるなあ、コムイさん」
足取りも軽く去っていくコムイの背を見つめ、アレンは深いため息をついた。
「急にわけのわからないことをするけど、面白そうさ」
「豪華な賞品ってなんでしょうね。僕はできれば現金がいいんですが」
アレンの顔は真剣そのものだった。
「これはまた生々しい発言さ!何か欲しいものでもあるのか?」
「……クロス師匠の借金がまた発覚しまして。なぜか保証人が僕になってるんですよね」
アレンのうつろな目が、あらぬ方向に向けられた。
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クロス師匠は自分の進むべき道を標してくれた恩人。だが、お金にルーズですべての厄介ごとを弟子に押しつけるという欠点もある。
「まあ、いいんですけどね。いつものことだし」
どこか捨て鉢にアレンはつぶやいた。
「おまえ、苦労してるんだなあ……」
ラビは慰めるようにアレンの肩を叩いた。
「まあ、賞品でもいいんですけどね。換金できるものなら」
アレンは暗い笑みを浮かでた。
「こ、こら!『黑アレン』になってるぞ!」
「フフ……師匠の借金の総額がいくらか教えてあげましょうか?」
「うわー、アレンが壊れた!気分転換するさ!ほら、楽しいパーティーに行くさ!」
うつろな表情でクスクス笑うアレンをラビがずるずると引っ張っていった。
パーティー会場である闘技場に入ったアレンとラビは思わず声を上げた。
「うわあ……」
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闘技場は天井が見えないほどの高さで、果てがないほどの広大な面積を誇っていた。その中には数え切れないほどの団員たちがひしめきあい、その熱気にくらくらする。
「すごい人ですね」
「さすがに壮観さ。あ、ジジイももう来てる」
ラビがめざとく、師匠であるブックマンを見つけた。身長百四十センチ程度の老人など人混みに理もれても不息礒ではないが、彼は独特の存在感で目を引いていた。どこか妖怪めいて見えるのは、彼が謎の存在であることも一役かっているだろう。
「あ、ミランダさん!」
アレンが声をかけると、一人でおろおろとしていた長身の女性が黑髪を揺らしてこちらを見た。同じエクソシストのミランダ·ロットーだ。
黑い服を着て猫背でおどおどしたその姿は、まるで弱気な魔女のようだ。
「よかった……知らな人ばっかりで、どうしたらいいのか」
「すごい人ですよね。僕もほとんど知らない人ばっかりですよ」
アレンは団員で一杯の会場を見回した。
「あ、クロちゃんもいるさ」
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ラビが楽しげな声を上げた。
長身のアレイスター·クロウリーは、周囲から頭一つ飛び出ていた。いつものように黒衣に身を包み、パーティーが珍しいのか、楽しそうにきょときょと辺りを見回している。
一見、冷たく恐ろしげに見える彼だが、子どものように無邪気なところがあって実はなかなかに可愛らしいのだ。
突然、肩に衝撃を受け、アレンはよろめいた。
「あ、すいませー」
振り返ったそこには、仏頂面たした神田ユウがいた。
鋭い眼光を放つ、つりあがった大きい黑い目。長い黑髪をいつものように後ろで一つに結わえ、腰には刀ー六幼、を差している。団脈を羽織っていないシンプルな服装だが、整ったその顔に笑が浮かぶことはなく、近寄りがたい雰囲気は変わらない。
「ぼけーっとつったってんじゃねえぞ、モヤシ」
そう言い捨てると、神田は背を向けた。
ー相変わらず失礼な人だなあ。そっちがぶつかってきたんじゃないか。
後ろで一まとめにした神田の黑髪をぐいーっと引っ張ってやりたい。どうも神田とは相徃が悪い。
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神田はよたよたと人混みをかきわけていく。まるで酔っているかのような覚束ない足取りなのが気になった。
「あれ、神田じゃないのか。あいつがこんなところに来るなんて珍しいな」
近くでそんなつふやきが聞こえ、アレンはそちらを見た。探索部隊とおぼしき二人の団員が顔を突き合わせている。
「さっき、コムイ室長に酒だか薬だか、わけのわからないものを飲まされてたぞ」
「……なるほど」
アレンは二人の団員とともに神田の背を見つめた。
ふらついた神田がゴチッと壁に頭をぶつけている。
ーまあ、いいか。
アレンは神田の後ろ姿から目をそらした。
「よう、アレン」
「リーバーさん」
科学班班長のリーバーが、人をかきわけて声をかけてきた。
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「すごい賑わいですね。教団ってたまにこういう大々的なパーティーを開くんですか?」
「いいや、またコムイ室長の気まぐれ。あの人、昨日は徹夜で用意してたんだぜ。俺たちの手伝いはいらないって言ってさ」
「そういえば、いつも忙しい団員の慰労も兼ねているって言ってましたね。教団報にも過労問題が取り上げられていましたし、やっぱり責任者としていろいろ考えているんですね」
「……慰労に親睦か。あの人がをんな真っ当なことに、これだけの手間暇をかけるかな」
「え?」
「考えすぎだといいんだけどな……」
リーバーは顎に手を当てると、深いため息をついた。
アレンのげ配そうな顔を見て、リーバーが苦笑を浮かべた。
「悪い。変なこと言っちまったな」
「そうそう。せっかくのパーティーなんだから楽しむさ!」
ラビに言わわ、リーバーはうなずトた。
「そうだな。じゃあ、また後で」
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リーバーは片手を軽く上げると、科学班のもとに戻っていった。
そのとき、会場の奥に用意されたステージにライトがともった。
ライトを浴びて立っているのは、マイクを持った長身の男性と、すらりとした肢体をもつ若い女性の二人組。ともに黑髪でアジア系の顔立ち。コムイとリナリーのリー兄妹だ。
コムイがにこやかに会場を見渡す。
「皆よくきてくれたね~。それでは『団員親睦パーティー』を始めます!進行役は私、コムイ。アシスタントはリナリーです」
どこかとまどいがちな拍手がぱらぱらと起きた。
「それではまず、乾杯から。皆さんの功労を称えまして、かんぱーい!」
団員たちはテーブルに置かれたグラスを取り、掲げた。
「さっそくゲーム大会を開催したいと思います。優勝者は豪華賞品がもらえます!」
ステージの真ん中にスポットライトが当たった。
そこには長身のコムイがすっぽり入ってしまいそうな、大きい箱が置かれていた。
わっと団員たちから鮎歓声が上がった。
「なんだ、あれ!」
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「でけー!」
「中身が何かはお楽しみに!」
コムイがにっこり笑う。
「コムイ室長、えらくハイだな……」
「ああっ、ちょっと気になるな」
コムイと一番接触の多い科学班の団員たちは不安げに、今にも踊り出しそうなコムイを見つめた。
「ゲームの説明をします。最初は全員参加の勝ち残り戦。一回戦のゲームは『大食い対決』です!皆様、お好きなお度に着いてくださ!」
コムイの指示に従い、団員たちはずらリと並べられたテ一ブルにぞろぞろと着き始めた。
アレンとラビとりもに中央のテ一ブルに座った。
「大食いか~。余裕だな」
「そうですね」
アレンはラビの言葉にうなざいた。
イ1センスの寄生タイプのアレンは、普通の人の軽く十倍は食べられる。
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「大食い大会!?なぜそんな下品な催しにボクが参加せねばならんのだ!」
聞き覚えのある大声に、アレンは振り向いた。
後ろのテーブルに座っているよは、アジア支部長、バクーチャンだ。周囲の視線を一身に集めている。
すらりとした、ー見知的で繊紳そうな青年だ。実際、有能で家柄もいい。しかし、お坊ちゃん気質の抜けない彼は、団員から尊敬されつつも、面白がられるという微妙な立ち位置にいる。
「あれー、バク支部長も来てたんだ」
「何気にあの人、こういうのに参加するよね」
「結構、寂しがり屋なんだよ」
こそこそと団員たちがささやき合っている。
バクがおもむろに立ち上がり、壇上のコムイに鋭い視線を向けた。
「ゲームの変更を求める!」
びしっと指を差してきたバクから、コムイはすっと視線ををらせた。にこやかに微笑み、会場を見渡す。
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「全員、度に着きましたね。制限時間の三十分以内に完食できた人が二回戦に進出できます」
「無視か!?オレ様を無視する気か、コムイー!!」
絶叫するバクをアジア支部の団員が押さえつける。
「リタイヤは自由でちが、罰ゲームがありますので頑張ってください!ちなみに、一分以上手が止まった場会もリタイヤとみなしまち。協力は料理人の皆さんです!」
「みんな、たくさん食べてね!」
ジェリーたち討房スタッフが、にこやかに皿を運んでくる。皿には銀の蓋がかぶせてあり、中身はまだ見えない。
「コムイィィィ、オレ様の話を聞け~!!)
暴れまくるバクを、お付きのウォンが懸命になだめる。
「まったく、オレ様主催の上海のパーティーではー」
まだブツブツ言っているバクの声を、団員たちのざわめきがかき消した。
運ばれてきたのは馬車の車論くらいある大皿で、上に載せてある銀の蓋は大の大人がようやく一抱えできるくらいの大きさだったのだ。
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「わー、なんの料理だろ。楽しみさ!」
ラビが目を輝かせと、運ばれてきた皿を見つめる。
「くだらん。なぜ俺がこんなことを」
ラビの隣で神田がぼそっとつぶやいた。その頬はほんのり桜色に染まり、目は潤んでいる。やはりお酒か何かが入っているようだ。
「ユウ、最初から言い訳なんてみともないさ」
「僕も負けるはずないだろう、ひっく」
しゃっくりをしながら、神田がちらっとラビ越しにアレンに視線を飛ばした。
「特にそこのモヤシにはな!」
アレンは真っ向から、神田の挑戦的な視線を受け止めた。
「僕も負ける気はしませんね。いい年して、子どもみたいに好き嫌いの多い我が儘な人には!」
「何だと?!」
六幼に手をかける神田の肩を、なだめるようにラビが軽く叩いた。
「おー、こわいこわい。まあ、落ち着くさ~。勝負は大食いでつければいいんだから」
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ラビの言葉に、アレンと神田はようやく視線をそらせた。
アレンの向かいの度に座ったミランダは胸を高鳴らせながらかしこまっていた。
「大食い対決なんて初めて……」今まで、こんなパーティーに呼んでもらえることは滅多になかった。招待されたパーティーではことごとく大惨事を引き起こしてきた。
ー楽しみ……だけど、今までみたいにドジをして、パーティーをぶち壊さないように気をつけなくちゃ。
緊張しているのだろうか。震えてきた手をミランダはぎゅっと握りしめた。
隣のテーブルでは、科学班の面々が顏を見合わせている。
「罰ゲーム?……なんだかイヤな予感がするな」
「コムイ室長の企画だからな。……何をされるかわからん。死ぬ気で食うぞ!」
科学班の団員たち全員が深くうなずき合った。
部下たちにそんなことを言われていそとはつゆ知らず、コムイはマイクを握った。
「それではどうぞ!『ロシアンシュークリーム』です!みなさん、蓋をとってください!スタート!」
コムイの言葉に、団員たちは銀色の蓋を開けた。
そこにけうずたかく積まれたシュークリームの山があった。握り拳大のシュークリームがざっと五十個くらいはあるだろうか。
「な、何これ!」
悲鳴と驚愕の声があちこちで飛び交い、場内は騒然となった。
そんな中、アレンとラビは特に驚くこともなく、シュークリームをまじ于じ見つめた。
「ロシアンシュークリームっとことけ、どこかロシア風なんですかね?」
「見たところ、別に普通のシュークリームを手に取った。
ふたりの疑問に答えるように、コムイが説明を始めた。
「ロシアンシュークリームとは、ロシアンルーレットのシュークリーム版です。ほとんどが普通のカスタードや生クリームですが、中にはちょっと珍しいものが入っているシュークリームがあります!」
再び、団員たちにざわめきが走った。
「ロシアンルールット?ちゃんで食えるものが入ってるんだろうな……」
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不安げな団員たちをよそに、クロウリーは目を輝かせてシュークリームを見つめた。今まで見なことのない食ベ物だ。どんな味がするのか、ドキドキしながらクロウリーはシュークリームを取った。
おそるおそる一口食べると、甘いクリームが舌の上でとろけた。
「うまいである!」
目を輝かせたクロウリーの隣で、座っていた男性団員がばっと手挙げた。クロウリーがびくりとその大きな体を縮ませる。
「あのー、オレ、胃潰瘍なんで大食いはちょっと無理です」
「えーと、じゃ、リタイヤでいいかな?」
「はい」
コムイがにっこり微笑んだ。
「では、罰ゲ一ムです!」
コムイが手元のボタンとぽちっと押した。
男の下の床がぱかっと開き、彼はそのまま椅子ごと落ちていった。
「わあああー!!」
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叫び声はどんどん遠くなる。
突然の出来事に、団員たちは呆然として動きをとめた。
クロウリーも突如床に開いた穴をあぜんと見つめた。黑い穴はかなり深いようで底が見えない。
しばらくすると、はるか下から団員の悲鳴が聞こえてきた。
「わああー、なんだこれ!ぎゃああああ!」
ばしゃばしゃという激しい水音、よくわからない生き物のうなり声のようなものが混ざり合い、やがて静かになった。
「と、いうわけでち。皆さん、リタイヤしないように頑張ってくださいね~」
マイク片手ににこりと微笑むコムイ。
「な、なんたこのトラップはー!」
「下に何があるんだ、また変な実験でもしてるのか!」
騒然とさる場内を気にとめる様子もなく、コムイはちらっと時計を見た。
「さあ、あと二十八分しかありませんよ~」
団員たちは再び必死の形相でシュークリームを食へ始めた。
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「ああー、こんなの食べきれるわけがない!」
そら叫ぶと、一人の団員がやけになったのか、ドアに向かってダッシュした。
コムイがすかさずスイッチを押す。その途端、どアの内側のシャッターが動き出した。
団員の目の前で、分厚い鉄のシャッターが無情にもガシャンと下りた。
「ゲームが終わるまで、誰もこの部屋から逃げられません」
コムイの目は本気だった。
場内はしんと静まりかえりっ団員たちは戦場上封く兵士のような決死の表情でシュークリームを倉べ始めた。
ーこ、二れのどこが親睦会?
その充葉が誰の胸にも去来しただろう。しかし、その疑問を口にする者はいなかった。
まるでお通夜のような暗い空気を吹き飛ばすように、ラビが明るい声を出した。
「もっと楽しく食べるさ!」
しかし、返ってきたのは、みんなのどんよりと濁った絶望の視線だった。
「な、パンダジジイ!」
焦ったラビに、向かいに座っているブックマンに声をかけた。ブックマンは目の回りに黑い縁取りしている。確かにパンダを彷彿とさせるが、この老人に面と向かってそう言えるのは弟子のラビだけだ。
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誰しもブックマンの厄撃を予想し、こわごわ様子を窺った。
しかし、ブックマンは無反応だった。人形にでもなってしまったかのように、かじりかけのシュークリームを手にしたまま、ぴくりとも動かない。
「あれ?どうしたさ、ジジイ」
ラビがそう言っ大瞬間、ブックマンが糸の切たマリオネットのようにがくりとテーブルに崩れ落ちた。力なく開いた手からころりとシュークリームが転がり落ちる。
「な、何!?」
「毒?」
団員たちが血相を変えて立ち上がった。
コムイならそれくらいやりかねない!その場にいた全員がそう思った。コムイの信用のなさが窺える一瞬であった。
「やだなー、毒なんか入れてないよー!みんな、過剰反応だな~」
苦笑するコムイを団員たちが冷ややかに見つめた。
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ラビはブッマンの前にあるシュークリームを見、声が上げた。
「あ……そうか、バナナさ!」
アレンはブックマンの手の近くに転がっているシュークリームを見た。半分ほどになったシュークリームの中に輪切りされたバナナが入っていた。
「バナナがどうかしだんですか?」
アレンの声に、ラビはうなずく。
「ジジイはバナナがダメなんさ!」
「バックマン、失格~」
床ががしゃんと開き、ブックマンが落ちていった。
気を失っていようが老人であろうが容赦なしである。
「あーあ、ジジイ、早々と失格さ。記録係のブックマンだってのに、しょうがない。俺が頑張って最後まで見届けないとー」
ぱくりとシュ一クリームを口にしたラビの顔が、さーっと青ざめていく。
「べふぉ!!」
奇声を発すると、ラビはばたっとテーブルに倒れ伏した。再び団員たちが騒然となった。
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「な、何だ!?」
「今度こそ、毒!?」
「だから、毒なんて入れてないって!!」
壇上から叫ぶコムイを見る者はいない。
「ど、どうしたんですか、ラビ?」
「あううう……」
ラビがぷるぷる震える手でシュークリームを指差した。
「な、中にわさびが……」
「え!?」
確かにシュークリームの中から緑色のクリームが見えている。
「わさび……ダメなんさ」
大量のわさびがしみるのか、ラビは涙をふき、鼻をずずーっとすすった。
「なーんだ、わさびか」
「驚かせやがって」
団員たちの声は冷たい。誰しも命の危険を感じているこの状況で、心が荒んでいるようだ。
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ラビががしっとアレンの肩をつかんだ。
「うう、アレン~、涙が止まらないさ!いろんな意味で!」
「あ、ちょっと、僕の服でふかないでくださいよ!」
「ずびーっ!」
「うわー、鼻をかまないでください!」
慌てたアレンはラビを両手で突き飛ばした。ラビは再びテーブルに頭を打ちつける。
「ひどいさ、アレン……」
「す、すいません」
涙をぬぐうラビに申し訳なく思いながら、アレンはシュークリームを口にした。
「!!」
「ど、どうしたんさ、アレン!『ムンクの叫び』の物真似さ!?」
「違います!」
アレンは顔をゆがめながら、手で口を押さえた。
「お、お酒の香りが……」
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「へ?ああ、リキュールづけのボンボンが入っているのか」
ラビは隣にいても漂ってくる濃厚な酒の香りにうっとりした表情になった。
アレンは梅干しでも食ベたかのように、口をすぼめといる。
「あ、アレンはお酒がダメだったさ!」
「ええ……トラウマがあって……」
空腹に耐えかね、うっかりクロス師匠の酒菓子を食べてしまった。そして容赦のない師匠の制裁ーあのときのことを思い出すと、今でも心藏が引き絞られ、胃が重くなる。
ラビがきょろきょろ周を見渡し、アレンにそっとささやいた。
「俺、そのシュークリームなら食えるさ」
目を見張るアレンに、ラビがそっとうなずいてみせる。
「俺が注意を引くから、その隙に皿を取り替えてくさ!」
「わかりました!」
ーとりあえずは共同戦線を張り、この窮地から抜けだそう!
アレンとラビはがっしり手を組んだ。
ラビはそっと隣を見た。そこにいるのは神田ユウ。コムイとはまた別の意味で危険人物と認定され
ている。教団で最も短気な男だ。
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「ユウ、シュークリームはこう食うとうまいさ。知ってるさ?」
テーブルに置かれたソースを手に取ると、ラビはどぼと神田のシュークリームにかけた。シュークリームの皮にソースが染みこみ、みるみる茶裼色に染まっていく。
テーブルの空気が凍りついた。誰もが手を止め、これから起こる事態に備え、身構えた。じろっと神田がラビを睨んだ。目が充血して買るので迫力満点だ。
「お?何か言いたいことがあるさ?」
「別に」
神田は気にする風もなく、再びシュークリームを食べ始めた。頭はふらふら前に横に揺れ、フォークを持つ手は覚束ない。今にも寝てしまいそうだ。
ーあれ?ここで怒るはずなのに。
予想と違う反応にラビは愕然とした。ソースがけのシュークリームを神田は顔色も変えずにむしゃむしゃと食ベている。
ーうわー作戦失敗さ!ここで暴れてくれるはずだったのに!どうしよう。意味もなく殴ってみるか。
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ラビがむちゃくちゃなことを考えくいると、アレンたちのテーブルに紅茶のポットが回ってきた。
「あ、僕がいれますよ」
アレンが気を遣い、周囲のカップを持ち上げた。
行き場をなくした紅茶が、びしや、とテーブルにこぼれた。
「何やってんだ、モヤシ!」
神田が飛び跳ねた紅茶をはらいながら、猛然と立ち上がった。酔いでダウンしかけていたとは思えない鋭い目をアレンに向ける。
「注ごうとしたのに、あなたが突然カップを取るからでしょう!?」
「誰が注いでくれと頼んだ!何時何分何秒に!」
叫ぶアレンに、神田がかみつくように言った。
「子どもみたいなことを言わないでください!!」
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アレンと神田は睨み合った。お互い一歩も引かない気迫がみなぎっている。
神田が無言ですらりと六幻を抜いた。アレンがゆっくり左手を持ち上げる。
団員たちにざわめきが走った。
ーまさかここでイノセンスを発動させる気か?
ーこのふたりならやりかねない!
神田もアレンもあまり団員から信田がなかった。
これから起こる惨事に備え、団員たちが息をのんでふたりの動向を見守った。
「こら!何やってんの!」
壇上からリナリーの凜とした声が飛んできた。腰に手を当て、こちらをキッと睨んでいるミニスカートの美少女に、団員たちからうっとりした視線が投げかけられる。怒っていても可愛いのだ。
「これは親睦会なんだから喧嘩しないで。やめなさい、ふたりとも!」
鶴の一声に、しぶしぶ神田は刀を鞘におさめ、アレンも手を下ろした。
固唾をのんで見守っていた団員たちがほうっと安堵のため息をついた。
「リナリーはすごいな……」
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「さすがリナリー」
「リナリー、ブラボー!!」
期せずしてリナリーコールが団員たちの間にわき上がった。さながらアイドルのコンサート会場のようだ。プレッシャーと疲労で団員たちのテンションもおかしくなってきていた。
リナリーが照れて困ったような顔をしてぐる横で力強く拳を挙げ、「リナリー、最高!!」と叫んでいるのはもちろんコムイだ。
度に着いたアレンに、ラビがそっとささやく。
「アレン、よくやった!」
「え?」
「皆の注意を引いてくれたから、皿を取り替えるのは簡単だったさ!」
「別にわざとじゃなんですけど……」
「これからユウを怒らせるときはアレンを使えばいいな!」
「……迷惑なんで、やめてください。頼みますよ!」
アレンは釘をさすと、わさびシュークリームにとりかかった。多少目にしみるが、甘いクリームを混ざっているので食べられないことはない。
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「それにしをもボリュームありますね。これは女性にはキツイんじゃ……」
そう言八かけたアレンの目に、正面に座るミランダが映った。彼女の山はとうに崩され、残り半分以下になっている。
ミランダは特に苦しげな様子を見せるでもなく、涼しい顔でぱくぱく食べ続けている。
「ミ、ミランダさん、大丈夫なんですか?」
アレンは思わず声をかけた。
ーあんなに細いのにどこに入るんだろう……。
「ええ、大大夫です」
ミランダが微笑んだ。もう既に二十個以上はシュークリームを平らげたとは思えない余裕の表情だった。
「このシュークリーム、おいしくって」
「そ、そうですか……」
装備型とはいえ、エクソシストになる人間はやはり常人とは違うのかもしれない。
アレンも負けじとシュークリームに取りかかった。
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「もう限界!」
アジア支部の団員が集まったテーブルで、眼鏡をかけた少女が三つ編みを振り乱し、悲鳴のような声を上げた。
彼女の名前は蝋花。アジア支部の科学班見習いだ。彼女の前にまだシュークリームが山と積まれている。
「これ以上食ベられません~。無理です~無理無理」
へたっとテーブルに突っ伏す蝋花を、バクが冷ややかに見つめた。
「そうか、じゃあリタイヤしろ」
「やだー。バク様、もうリタイヤするんですか?バク様に食べてもらおうと思ったのに……」
「誰がリタイヤすると言った!ちゃんと話を聞け!だいたい、なぜオレ様がおまえの分まで食ベねばおらんのだ!」
憧れのリナリー以外の女に冷たい男。それがバク·チャンだった。
をんなバクを恨めしそうに見つめていた蝋花が、突然皿を抱え上げた。
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「あっ、手が滑っちゃったー!」
斜めになった皿から、ざざーっと大量のシュークリームがバクのシュークリームの上に転がり落ちた。
初めよりも大きくなったシュークリームの山を、バクが呆然と見つめた。
「き、貴様ー!!何をする!」
バクは蝋花の胸ぐらをがしっとつかんでひきずり上げた。
「あうっ!そんなに激しく喜びを表現しないでください~」
「この顏を見ろ!どこが喜んでるように見えるんだ!」
噛みつくように怒鳴ったが、蝋花は怯える様子もなく言った。
「眼鏡がずれて、よく見えません~」
「だー!苛々する!オレ様はデリケートなんだ!またジンマシンが出るだろうが!」
蝋花を力任せにがくがく搖さぶっていたバクは、自分の皿のシュークリームの山がさらに大きくなっていることに気づいた。
「な、なんだこりゃ!!」
pg187
ぽいっと蝋花を投げ捨て、慌てて周囲を見渡すと、空になった皿が目に入った。
ウォンの皿だ。
「ウォン、貴様~!!」
バクはペーパーナプキンで上品に口をふいているウォンを睨みつけた。
「は?なんでしょうか、バク様」
「おまえ、ボクの皿にシュークリームをいれただろう!?」
「私は老い先短いおいぼれ。対してバク様は育ち盛りですから、これくらい必要かと」
「誰が育ち盛りだ!オレ様はもう二十九歳だ!」
そのとき、バクは不穏な空気を感じ取り、周囲を見回した。他のアジア支部の団員たちが皿を持ち上げて、ぐるソとバクを取り囲んでいる。ドス黑い顔色にうつろな目、はちきれそうな腹。まるで太ったゾンビの群れだ。バクはごくりと唾をのみ込んだ。
「バク様……」
「私たちの分も……」
「お願いします……」
墓場の底から聞こえてきそうな声だった。
pg188
「うわわー!!気持ち悪い!つーか、調子に垂るなー!!」
「うわー、バク様がキレた!」
「うおおおおおおお~!!ジンマシンが出る~!」
咆哮を上げ、バクがバリバリ体をかき始めた。
バクの凄まじい形相にウォンが壇上に助けを求めた。
「ひいっ、リナリー様!」
「はい?」
リナリーがこちらを向いた。
「バク様に声援をお願いします!」
一瞬きょとんとしたリナリーだったが、すぐに笑顏になった。
「え?ええ、バクさん、頑張ってください!」
「は、はい!」
ーリナリーの声援ーリナリーがオレ様だけに声援を声援を声援を声援をー。
幸せなエコーが頭に響き、バクがうっとりした表情になった。すーっと奇跡のようにジンマシンがひいていく。
pg189
「バクちやん、頑張って~」
夢うつつだったバクは、キッとコムイを睨んだ。
「気持ちの悪い声を出すな、コムイ!それから『バクちゃん』って言うな!」
ーどいつもこいつも足を引っ張りやがって。だが、このバク、チャン。そわしきの障害などものともせぬわ!
「ぬおおお!」
バクがかきこむようにしてシュークリームにとりかかった。
「さすが、バク様!」
「バク様、立派です!」
「默わ!この裏切り者どもがー!!」
「さあ、残り五分となりました。そろそろラストスパートに入ったほうがいいですよ~」
能天気なコムイを恨めしそうに見つめながら、団員たちは必死でシュークリームと格闘を続けた。
半泣きでシュークリームを口に運ぶ科学班の耳に、隣のテーブルからの声が届いた。
pg190
pg191
「ちっ、まったく科学班には迷惑ばっかりかけられてよ!」
「変人どもは隔離してほしいもんだ!」
ぶつぶつとイヤミを言っているのは、探索部隊の人間だった。
いつもなら苦笑でやり過ごせる言葉も、疲労困憊しているときに聞けばカチンとくる。
科学班の面々は椅子を蹴倒すようにして立ち上がった。
「オレたちだって苦労してるんだよ!」
「そうだ!こちとら直属の上司なんだぞ、アレが!」
負けじと探索部隊の人間も椅子を蹴って立ち上がる。
「おまえらのボスだろうが!バーカバーカ!」
目を覆いたくなるような幼稚な言い争いは、誰も止める者もなく、加熱していった。
しまいにはカップやら砂糖壺やらが二つのテーブルの上で飛び交った。
「はい、そこのテーブルの人たち~。残り三分、遊んでいる暇はないですよー」
コムイの声に両者はようやく醜い争いの手を止めた。
pg192
「くそーっ、絶対おまえら頭でっかち科学班なんぞに負けるか!」
「うっせー、インテリの底力を見せてやる!」
最後の気力を振り絞り、科学班と探索部隊はシュークリームをむさぼり食った。
しかし、体育会系の多じ探索部隊は体格がいい者が多く、徐々に皿は空に近づき始めた。
「リーバー班長!旗色が悪いです!」
「こうなったら秘密兵器だ!科学班の隠し刀、思い知れ!」
リーバーは隣で必死にシュークリームを頬張っているジョニーのうずまき眼鏡を取った。
そのままもじゃもじゃの髪をぐいっとつかんで、探索部隊に顔を向けさせる。
「ぶわっはっはっ、なんだおまえ、その顔は?……腹がいてええ!」
探索部隊の面々が笑いながら身をよじった。腹を抱える者あり、テーブルを叩く者あり、笑いの波が広がっていく。
「く。、汚い手を……ダメだ、笑いがとまらん!」
苦しがりながらも笑い続ける探索部隊。リーバーたちは顔を見合わせてほくそ笑んだ。
「よしっ、勝った!」
pg193
ガッツポースをとったリーバのほうをショニーが向いた。
「……なあ、いつも思うけど、そんなにオレの顔って面白い?」
「バカー!こっちを見るな!ぶわっはっはっ、なんだその韻~!」
笑いの波は科学班のテーブルをも侵した。そしてー。
「はーい、タイムアップ~。そこのきみたち、楽しそうだね。じゃあ、行ってらっしゃーい」
コムイがにっこり笑いながらトラップのボタンを押したときも、両者はまだ大笑いしていた。
ジョニーを除く、両班のメンバーは笑い声を響かせながら落ちていった。
「楽しそうで、何より!」
「そう?なんだか苦しそうに笑っていたけど」
リナリーが心配そうに彼らが落ちていった穴を壇上から見つめた。
会場を埋め尽くしていた人の影は消え、わずかにぐったりした表情の団員たちが残っているだけだ。
「ざっめ見渡して二十人くらい残ってますね。比較的、エクソシストの人が多いでしょうか。では続いて我慢対決です!」
pg194
「我慢対決?」
アレンとラビは顔を見合わせた。
「もう食わなくていいなら何でもいい……」
ジョニーがぽっこり膨らんだ腹をなでた。
「では次のゲームに行ってみましょう」
テーブルが撤去され、大き不透明の部屋が運ばれてきた。温室にも見えるその中にはテーブルと椅子が置かれていたが、それもすべて透明だ。
「はい、残った方たちはこの部屋の中に入ってください~」
アレンが透明なガラスドアを開けると、中から漂ってきた冷気が頬を打った。
「さ、寒っ!なんですか、これ6冷蔵庫みたいですけど!」
思わず足を止めたアレンにコムイが首を振った。
「冷蔵庫なんて甘いな~。中はマイナス三十度の世界です!」
「つまり、我慢大会っていうのは……」
「そう、寒さ我慢大会です!その部屋から出た人の負け!」
pg195
「早く入れ、モヤシ」
ガンと神田に足蹴にされ、アレンは転がるように中に入った。
残った団員たちも、こわごわ後に続く。
「さ、寒いである~」
クロウリーがぶるぶる震えながら、椅子に腰掛けた。その瞬間、バネ仕掛けのように飛び上がった。
「ひゃあっ!」
「どうしたんですか?」
「この椅子、氷でできているである!」
アレンは驚いて椅子に触れた。確かに刺すように冷たい。
「さ、そこに座ってください」
コムイの言葉に残った団員たちは顔を見合わせた。
過酷な罰ゲームを思い、顔をひきつらせながらも無言で座った。
そして座った瞬間、探索部隊の団員三名が部屋を飛び出して脱落した。
「何やってるんだ?あいつら」
pg196
平然と座った神田は、またうつらうつら舟をこぎ始めた。奇妙な生き物でも見るような視線が神田に集まる。
「何も感じてないよか?」
「さすが神田さん。鈍いですね~」
こそこそと団員たちが陰口をたたいた。
コムイがにっこり笑った。
「それでは、お食事タイム~」
「まだ食わせる気か!」
「オレたちをどうしたいんだよ!太らせて食う気か!」
猛然と食ってかかる団員の前に、ドンと置かれたのは山と積まれたカキ氷。
「制限時間は十分です!イチゴ味メロン味の好きなほうをどうぞ!」
「どっちでもいいわ、そんなもん!」
しかしルールはルール。仕方なく、団員たちは激しく震えながらカキ氷を食べ始あた。
「フフ……不思議だな、なんだか舌がしびれて温かく感じるぅ……」
「ん?ああっ、ジョニーさんが倒れてます!しっかりして!」
pg197
アレンの叫びにジョニーが部屋から運び出された。うっすら笑顔を浮かベたジョニーは「ああ、死んだばあちゃんが見える……」という不吉な言葉を残してリタイヤしていった。
バクは手を震わせながらも、カキ氷を口に運んだ。
「はあ……冷たい。というか何も感じない……これのどこが親睦パーティーだ……コムイめ」
「バク様!目がうつろですぞ!眠ってはいけません!起きて起きて!」
ウォンが慌とたように、バクの頬を渾身の力をふりしぼって平手で打ち始めた。
「あだだだ!!力任せに往復ビンタをするな!ちゃんと起きているわ!」
「そ、そうですか。失礼いたしました。バク様の身に何あわばこのウォン、腹を切らねばなりませんので!」
「何が腹切りだ!おまえは中国人だろうが!そんなにオレ様が心配なら、オレ様の分もカキ氷を食え!」
「あれ?何かおっしゃいましたか?耳に虫が入ったみたいでよく聞こえませぬ」
「この極寒の中、虫がいるわけないだろうがああああ!!」
pg198
バクとウォンの主従漫才を見ながらアレンはため息をついた。吐く息が白い。
「元気だなあ、バクさんたち……」
「まったくさ。しかし、これのどえ親睦パーティーなんさ?おかしいと思わないか?」
「確かに……どちらかと言えばサバイバルゲームですよね」
もしかしたら、このパーティーには隠された意図があるのかもしれない。
アレンは震えながら、ガラス越しに主催者であるコムイに視線を向けた。
コムイは毛皮のコートを羽織り、リナリーにいれてもらった温かそうなコーヒーをうっとりとした表情で飲んでいる。
ーう、羡ましい……じゃなくて、いったい何のために大食い大会や我慢大会をさせるんだろう。意味がわからない。だいたい、僕にマッド・サイエンティストの思考を理解できるわけがない。
アレンの中でコムイはクロス師匠と同じ場所に分別された。心の中にあるその場所の名は『理解不能の変人』。
アレンは向かいの神田をちらっと見た。
pg198
神田は顔色を変えることもなく、さっさとカキ氷をたいらげていた。
ー何こいつ。サイボーグ?
神田も同じカテゴリーに入れることにする。
「はい、十分たちました~。食べられなかった人は退場です!」
凍えきった団員二人が新たに部屋から出された。
「次は氷の差し入れです。使い方は自由だゾ!」
「可愛い口調で言うなっつーの!」
逆上したラビが猛然と椅子から立ち上がろうとしたが、ズボンが氷の椅子にくっついていたので椅子ごと倒れた。
あまりに過酷な状況に、ラビを助け起こす者は誰もいない。荒涼とした光景だった。
氷の入ったピッチャーを、入り口に近いミランダが受け取った。
「あっ、あの……これってここにおけばいいですか?」
テーブルに置こうとしたミランダが、何もないところでつまずいた。
氷がざーっと近くにいた団員の頭に降ってきた。
「ぎゃああああ!」
pg200
氷をはらいながら、団員が部屋を飛び出した。
「ごめんなさい!私ったら!」
慌ててピッチャーを拾おうと屈んだミランダはっ隣にいた団員の頭に頭突きをした。
ただでさえ意識朦朧としていた団員が、そのまま無言で昏倒する。
「ああっ、大丈夫ですか?返事をしてください。きゃあああ、白目をむいてるわ!」
「はい、退場~」
運ばれていく団員を見ていたミランダがわっと泣き出した。
「ああああ、私のせいで!ほんとすいません!責任を取ります!」
そう言うと、ミランダはピッチャーを抱えたまま部屋を飛び出していった。
「ミ、ミランダさん落ち着いて……ってもう遅いですね」
アレンは駆けていくミランダを呆然と見送った。
気づけばっ残っているのはラビ、神田、クロウリー、バク、ウォン、そして自分の六人だけだ。
「クロウリーさんは寒さに強いんですね」
「そ、そうであるな……。住んでいたところはよく雪が降ったであるから」
pg201
ラビが突然、噴きだした。
「な、なんであるか?」
クロウリーがおどおどとラビを見た。
「『なんであるか』?」
ラビがおどけたように繰り返した。腹を抱えて笑うところを見ると、どうやらクロウりーの訛りがツボに入ったらしい。
「な、なんで真似するであるか!」
「『なんで真似するあるか』~」
ラビが笑いながら続けーそしてすぐその笑顔が凍りついた。
クロウリーの顔には先ほどまでの気弱そうな陰は微塵もなく、氷のように冷たい自が輝いていた。
「貴様、何がおかしい?」
「ク、クロちゃん、口調が変わっちゃってるさ。そんな怖い顔、するなあるよ!」
ラビは必死で笑いでごまかそうとしたが、それがさらに火に油をそそぐ結果になった。
「どこまで愚弄する気だ!許さぬ!」
pg202
「ク、クロウリーさん、落ち着いて!」
アレンの言葉も虚しく、クロウリーはカッと牙を剥いた。
「わあああ、逃げるが勝ちさ!」
ラビがひょいと身軽にテーブルを垂り越えた。
「バク支剖長、助けてさ!」
ラビは素早くバクの背後に隠れた。
「な、なんだ!?」
体を丸め、寒さをしのいでいたバクは、震えながら顔を上げた。
目の前にはカッと牙を剥くクロウリーがいた。そのつり上がった目は憤怒に染まっている。
「うぎゃあああ、なんだこいつはー!!」
「バク様!」
主の危機に隣にいたウォンが顔色を変えて立ち上がった。
「おお、ウォン!」
ーやっぱりなんだかんだ言っても、ウォンはオレ様を助けてくれる!
pg203
感激したバクの目に信じられないものが映った。
ウォンが脱兎のごとく部屋の隅に向かって駆け出したのだ。
「バク様なら、きっとこの試練を垂り越えられると信じております~」
「貴様、なに安全地帯た逃げてるんだー!!」
「バク様の成長のため、ここは心を鬼にして!」
「だから、もうオレ様は二十九歳だ!!じゅうぶん成長してる!」
バクはテーブルをつかむと、立ち上がる反動を利用してクロウリーにぶつけた。
一瞬よろめいたものの、クロウリーはテーブルを片手で弾き飛ばした。
バクは顔を引きつらせながら、まっすぐウォンに向かって走った。
「ひいいい!バク様、なんでこっちに来るんですかー!」
「じゃかましい!」
クロウリーが飛びかかってきた瞬間、バクはさっと身を屈めた。
「ひどいですー!!」
クロウリーが勢いあまって、壁の隅にいたウォンに飛びかかる。
「ぬおおお、老いたりといえどもこのウォン。ただでやられはせぬ!」
pg204
ウォンの目がぎらりと光った。
ウォンはクロウリーの胸元をつかむと、足を跳ね上げた。
「巴投げを食らえー!!」
「だからおまえは中国人だろうが!!」
見事な巴投げをくらい、クロウリーがガラスの壁に勢いよくぶつかった。
そのままっがラスを突き破っていく。
「ぬう!」
しかし、最後の力を振り絞り、クロウリーはウォンの袖をつかんだ。
ふたりは割れたガラスとともに、床に転がるよらにして落ちた。
「はい、失格~」
容赦なく床が開き、ふたりは仲良く落落ちていった。
アレンたちは呆然と、割れたガラスのそばに立ちつくした。
「……えーと、部屋が壊れましたので、残った人が自動的に決勝進出ということで」
アレン、神田、ラビ、バクはそれぞれ顔を見合わせた。
「決勝戦は四人。勝ち残った人が勝者となります。そのゲームは……」
pg205
コムイが胸元からカードの束を取り出した。
「ポ一カー対決!」
ー勝った。
顏には出さず、心の中の黑アレンが勝利を確信した。
様々な賭場で勝ち抜いてきたのだ。イカサマも完璧。負けるはずがない。
ーとはいえ、油断は禁物だ。
アレンはメンバーを見渡した。
ーバクはおそらく緊張感に耐えられないはず。ジンマシンが出るし。神田にいたってはアホなので問題外だ。謎めいた過去をもつラビは要注意か。
ー大丈夫。いつも通りにやれば勝てる。
アレンはそう言い聞かせた。
「さて、さっそくゲームを始めます。ルールは普通のドロー・ポーカーです。皆さん、知ってますね?」
アレンたちはうなずいた。
五枚の手札を持ち、手役に不要なカードを伏せたまま捨て、捨てた枚数と同じだけ山札からひく。そうやってできた五枚のカードの組み合わせによって、勝敗が決まる。それがドロー・ポーカーだ。
pg206
「通常どおりのハイポーカーです。だからカードの順位はA、K、Q、J、10~2だね。ワイルドカードー何にでも代用できるーとして、ジョーカーも入れます。手札の交換は一回のみとします」
アしンはポーカーフェイスを保ちながら、心の中で快哉を叫んだ。
重要なカードを隠し持持つという、確実で汎用性のあるイカサマできる。
ワイルドカードありのルールであれば、ジョーカーさえ押さえておけばなんとでもある。
ーまだ借金は残っている。ここまで頑張ったのだ。なんとしても勝って、絶対賞品を勝ち取ってやる。
カードが五枚ずつ配られた。
アレンは手札を見た。手札の交換は一回のみ。こうなるとおのずと高い手役ができる確率は低くなる。運が良ければワンペア(同じ数字のカードが二枚)でもKクラスなら勝てるはず。
ー普通なら。
pg207
ーだが、ここは万全を期すべきだろう。
アレンは勝負師モードに入った。優しげな面影は消え、目はぎらぎらと勝利への貪欲さに輝き、自分の邪魔をする者は叩き潰すことも厭わない迫力に満ちていた。
「黑アレン、再びさ……」
ラビがぼそっとつぶやいたがアレンは黙殺した。
それぞれ手札を交換していく。
アレンは素早く左手にカードを数枚隠し持った。この技を磨くため、幾度危ない橋を渡っただろうークロス師匠の尻ぬぐいの日々が思い出される。
アレンは目を凝らしたが、イカサマをしている者はいなかったー自分を除いて。
ーこれなら勝てる!
そのとき、背後からバクが手札を覗いていることに気づいいた。
「な、なんですか、バクさん!」
叫んだ瞬間、バクが腕を首にからめてきた。
そのままアレンを小脇に抱えると、バクがそっとささやいた。
「ウォーカー、ものは相談だが、手札を交換しないか?」
pg208
pg209
「イヤですよ!なんでそんなこと……」
「いや、ここはアジア支部長であるボクが優勝するというのが、やはリ親睦会としてあるべき姿かと思ってな」
「なんだかんだ言って、リナリーにいいところを見せたいんでしょ!?」
「バカもの、声がでかい!」
「バクさんにはお世話になりました。でも、これは勝負の世界なんです。正々堂々といきましょう!」
イカサマをしているとは微塵も感じさせない清々しい笑顔を浮かべ、アレンはバクの腕を振りはらった。
「くう、かくなる上は!」
バクが懐からスプレーを出してきた。
「な、なんですか、それ!」
「アジア支部の開発品だ!このスプレーから出る煙を吸えば、夢うつつになり、一分ほど記憶を失う。これを使ってカードをすり替えればボクの勝ちだ!」
「バクちゃん、手の内バラしてどうするの~」
pg210
にこやかに笑顔を浮かべたコムイがパチリと指を鳴らした。シェリー以下、屈強な料理人たちがバクを羽交い締めにすると、スプレーを奪った。
「ああっ!!」
コムイがバクの手札を場に出した。
「バクちゃんの手役は3のワンペアだね」
「オレの勝ちだな!」
頬を紅潮させた神田が自信満々に声を上げた。
「えっ!」
皆の視線が神田に集中する。アレンは背中に冷たい汗が流れるのがわかった。まさかー。
ばっと神田が手札を晒した。
「ダブルスリーカード!」
「は?」
意味不明の言葉に神田以外の全員が目をむいた。
「六枚あるじゃん!」
pg211
「それがどうした!」
平然と答える神田に全員、がっくり頭を垂れた。
「誰かユウにルールを教えてやってくれさ!」
アレンは心の中で安堵のため息をついた。
ーまったく、心臓に悪い。人騒がせな!
「はい、神田くんの負け~」
「何だと!」
コムイに食ってかかろうとした神田がばたっと倒れた。
「ユウ!?」
駆け寄ったラビが苦笑した。
「……寝てるさ。どうやらとうとう酔いが回りきったみたいさ。さて、アレンとオレとの一騎打ちだな」
ラビがニヤリと笑った。
「アレン、ともにここまで戦ってきたけど、勝負は勝負。恨まないでくれさ!」
ラビの言葉にアレンは顔がひきつるのを感じた。ラビは何を考えているのかわからないので、どんだことを引き起こすか予想がつかない。
pg212
「ポーカーで最強の手役、ロイヤル・ストレート・フラッシュさ!」
げっとラビが手札を並べた瞬間、わっと歓声が上がった。
ロイヤル・ストレート・フラッシュー同じスーツでA、K、Q、J、10、のカードを揃えるこの手役の確率は約六十五万分の一。つまり、奇跡に近い。
「あっ、ちょっと待ってください!」
アレンはスペードばかりの中にクローバーが混じっていることに気づいた。
「ほら、10だけマークが違います!これはストレートです!」
「ええっ、あれ、ほんとさ」
満を持して、アレンは手役を晒した。
「これが本当のロイヤル・ストレート・フラッシュです!」
ダイヤのカードがずらりと並べられている。Kのところはジョーカーだ。ワイルドカードの助けなしでロイヤル・ストレート・フラッシュにすると怪しまれると考えての手札だ。
「うおおお!すごいさ、アレン」
ラビが肩をバシバシ叩いてくる。アレンは勝利に酔いしれながらうなずいた。バクが「ウォーカーめ~うらんでやるう~」と呪いの言葉を吐いているが無視する。
pg213
「アレンくん、優勝おめでどう!これが賞品です!」
コムイが巨大な箱を開けた。アレンは固唾をのんで、賞品の出現を見守った。
中から出てきたのは、大きい頑丈そうな椅子だった。
「え、椅子……ですか?」
予想外の賞品だ。名匠の作品なのか、それともどこか特別なのだろうか。
「さあ、どうぞ!」
コムイに突き飛ばされ、アレンは椅子に腰掛けた。その瞬間、腕と足に拘束具が巻き付けられた。
「なんですか、これ!」
呆然とするアレンを、コムイが冷たい目で見下ろした。
「コムイさん?」
「きみじゃないか、とは思っていたんだよ。アレンくん」
コムイが眼鏡のブリッジを中指で押し上げた。レンズがきらーんと光る。
「何のことですか?」
pg214
アレンは何が起こっているか理解できず、まじまじとコムイを見つめた。拘束具は特別製らしく、力をこめてもびくともしない。
「いったい何事さ?コムイ!」
ラビの叫びなど意に介さず、コムイけ冷たい同を向けた。
「くっくっくっくーふわっはっはっ!」
「な、なんさ?」
突然、激しく笑い出したコムイに、周囲の人間が怯えたような目を向けた。
「団員親睦パーティーなど、ただの名目に過ぎない!このゲーム大会を開催したのは、それはー」
コムイがびしっとアレンを指差した。
「リナリーの彼氏を突き止めるためだったんだよ!」
「はあああ!?」
をの場にいた人間の視線がアレンに突き刺さった。
「え?アレンがリナリーと付き合ってるさ?」
「リナリーに恋人がいるんですか!?」
pg215
アレンは拘束されたまま、驚いてリナリーを見た。
「しらばっくれてもダメだよ、アレンくん!」
「何を言ってるの、兄さん!」
呆然と目を見開くリナリーを、コムイは悲しげな目で見つめた。
「もう、わかってるんだよ、リナリー……」
コムイはくしゃくしゃに丸めた紙を取り出した。
「何これ……あっ、これ『教団報』!」
「そのインタビュー記事を読んだんだ……」
コムイが沈痛な表情になった。
「それとこのパーティーに何の関係があるの?」
「あるさ!この恋愛に関する件だ。読んでみるよ?
『リナリーさんもお年頃ですが、どんなタイプの男性が好きですか?』
ーそうですね。お菓子作りに凝っているので、甘いものが好きでたくさん食ベてくれる人がいいですね。
pg216
『他には?』
ーまじめな人がいいですね。自分の仕事を責任を持って果たすような。何事も忍耐強く、取り組む人は素敵だと思います。
『逆にこれはダメ!というものはありますか?』
ー特にないですね。好きになったら、そのひとのすべてを受け入れたいです。
『ギャンブルとかもOKなんですか?』
ー借金とかある人は困りますけど。個人で楽しむ分にはいいんじゃないでしょうか。逆に、ポーカーとか強い人って憧れますね。
『教団内で誰か気になる男性はいますか?』
ー……(顔を真っ赤にして押し默ってしまったリナリー嬢を見て、記者は気になる男性の存在を確信した!)。
『ありがとうございました。リナリー・リーさんのインタビューでした』
……ほら、わかるだろろ?」
「それがどうしたの?」
pg217
「だから、甘いものが好きな大食らいでポーカーが得意で我慢強い彼氏がいるんだろう!?」
コムイの絶叫に、リナリーが呆然とした。
「ボクはそれを突き止めるためにこのパーティーを開いたんだ!」
「それで大食い勝負とか、あんなむちゃくちゃな内容だったんですか!つーか、あなたはそれだけのためにこんな手間をかけて……」
アレンは体から力が抜けるのを感じた。
「落ち着いと、兄さん。これはあくまでインタビューに答えたざけよ!私には恋人なんていないわ!」
「ほんとかい、リナリー?でも、アレンくんはまさしくおまえの条件にぴったりじゃないか。やはり芽は早く摘んでおいたほうが……」
コムイはガシャンとなにやらやばそうなドリルのついた機械を出してきた。
「動けないように固定したし……」
「コムイさん、そんな殺気を込めた目で見ないでください!」
アレンは手と足を革べルトで固定されながら、じたばたともがいた。
pg218
「僕は無実ですよ!すいませんが誰かこれを取ってください!」
「そういうことだったhですね……」
地獄から響くよらな恨めしげな声に、アレンはハッとした。いつの間にか会場には団員たちが戻ってきていた。その数は軽く百人を超えるだろう。皆一様にずぶ濡れで、服はところどころやぶけており、目には異様な光を湛えている。まるでゲリラ戦を終え生兵士のような壮絶な姿だ。
ドアをふさいでいたシャッターがいつの間にか上がっている。
コムイの頬がひきつった。
「あれ、きみたち、あの地下から戻ってきたの?」
「ええ、科学班の人が緊急脱出装置を見つけてくれたおかげね……」
恨めしそうに団員たちがコムイを見つめている。
「コムイ室長……どういうことですか」
「親睦会じゃなくて、犯人搜しだったんですか?」
「俺らは何の関係もないのに、こんな目に……」
先ほどのコムイに負けない殺意に燃える目をした団員たすが、じわじわとコムイの周りを取り囲んでいく。
pg219
「いや、みな落ち着いて。ほら、よく見て。普段はあまり交流のない別部署の人間たちが、今まさに一致団結して一つの目的に向かってるじゃないか!結果オーライって言葉知ってるよね?え?詭弁?嘘から出た真という言葉も……もういい?」
にじり寄ってくる団員たち。
コムイはじりじりっと後ずさりした。
「くっ、かくなるうえは!」
コムイは落とし穴に自ら飛び込んだ。
「地下に逃げたぞ!」
「追えっ!」
「私たちは外から回るわ!」
「熱感知器を持ってこい!それと赤外線スコープも!」
「アレンくん、大丈夫!?」
駆けつけた科学班に助けられ、ようやくアレンは拘束をとかれた。
「ありがとうございます!一時は本当にどうなることかと……」
アレンは大きく息を吐いた。
トラウマを喚起させるシュークリームを食わされ、想像を絶する寒さの中カキ氷を食わされ、挙げ句に拘束されと殺されそうになりーそして、望みはあっけなく潰えた。
「豪華賞品というのは嘘だったんですね……借金返済の夢が。ふふ、ふふふふ……」
「わー、アレンがまた黑アレンに!」
怯えるラビの隣で、アレンが高々と右手を挙げた。
「さあ、みなさん、行きますよ!」
「おう!」
アレンの声に、団員たちは雄々しく手を挙げ、ー斉に復讐戦に乗り出した。
確かにその日、団員たちは一つはなったー約一名を除いて。
教団報がー号で廃刊になったのは言うまでもない。
--------------------------------------------------
if there are any typo errors, please1.post a message or pm me
or 2. edit it as you like as long as you enjoy the stories~
i don't really mind even if anyone were to take credit for the typeout (really), just buy the book (recommanded~ those stories are really interesting)
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«Oldest ‹Older 201 – 232 of 232スタービーチなら好みの女性がきっと見つかる!会員数ナンバーワンのスタビでご近所さんを探そう
日本最大級の出会いコミュニティ「スタービーチ」で探しませんか。素敵な出会いを経験して理想の人と楽しい思い出を作りましょう
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